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「それって・・」
 尾浜が言いかけようとしたのを遮って、久々知が続ける。
「郊外にでっかい個人病院があるだろ、園田クリニックっていう。そこが産婦人科を新設したいんだそうだ。前に切迫早産で救急搬送されてきた患者を診たんだが、それが院長の園田氏の娘でね、それからの付き合いだ。もちろんうちの病院の現状も知ってて、移るのは山本先生が戻られてからでいいと言われた」
「・・・兵助は、どうしたいの」
「わからない」
 といって久々知は、手に持ったビールジョッキを煽った。口に泡が付いているのにも構わず、机の上の箸袋(律義なのか暇だったのか、白鳥の形に折ってあった)を見つめてぽつりぽつりと話す。
「うちは確かに多忙だけど、産科なんてみんなこんなものだろ、それは変わらないと思うんだ。ただ給与は確かに上がる。そりゃあこんな大学病院と、高額な入院費と引き換えにハイレベルの設備と病院食をうたってるような園田じゃ雲泥の差だよ。それに、あちらさんは俺の腕をかってくれてる」
 尾浜はただうん、うん、それで、と合いの手をいれるだけで、久々知が喋るのに任せている。
 普段自分のことになると口数の多くない彼がここまで喋るには、アルコールの力が確かに必要だっただろう。
「けど、個人病院に行ったら、今までみたいな研究はできなくなる。それに園田は救急を受け付けない。後味の思いをするだろうことも、俺がやがてそれに慣れちまうだろうことも想像できるんだ。こっちには愛着もあるし、みんながどう思うか・・」
 ついに久々知が黙り込む。尾浜はいいあぐね、手元の箸をくるくると回してみる。ようやく口を開こうとしたとき、お待たせしましたぁと場違いに明るい声がして、店員が中ジョッキとビールを運んできた。礼を言ってそれらを受け取り、店員の姿が完全に見えなくなったとき、

「兵助」
「勘ちゃん」

 タイミングの妙に、顔を見合わせて思わず笑いあう。
「なに、兵助」
「いや、もういいんだ。続けて」
 じゃあ、といって尾浜もビールを一口飲む。
「おれは兵助の選択に口を挟むわけにはゆかないよ。だって所詮他人なんだもの。だけど同じように、園田の院長だって、三郎や雷蔵たちだって他人なんだ。彼らがどう思うかを気にしすぎたら駄目だ。平助の人生を生きるのは平助なんだから、自分がどう思うかを基準に考えなきゃ」
「・・・。」
 尾浜が話す間中また下を向いていた久々知だが、ふと顔をあげた口元はもう引き結ばれてはいなかった。
「そうかもしれない。相変わらず勘ちゃんは明快だ。相談して、よかった」
「どういたしまして。兵助、一人でそんなに思いつめるくらいならおれに相談してよ。確かに他人だけどさ、一緒に考えることはできるんだから。
 ・・・・さて、もう遅いけど、乾杯しようよ」
「何に?」
「おれたちふたりと医療の未来に」

 噴き出しそうな久々知と、尾浜のジョッキが軽やかな音をたてた。




 その頃、営業時間を過ぎた薄暗い食堂には、七松と善法寺の姿があった。
「いさっくん、あんな約束してどうするつもり」
「ううん・・・とりあえず母親の件は、症状きいたら見当がついたから何とか診察して、治せるとして。
 問題はその宗教団体からどうやって抜けさせるか、なんだよね」
「そこまでやらなくてもいいだろー? 金の場所を聞き出せばそれで解決だ」
「けど・・」
 そこに、お待たせしました、と言って現れたのは救急外来看護師、皆本金吾であった。後ろに小柄な人影を伴っている。
 それが臨床工学技士の夢前三治郎であることを、二人の医師は同時に認めた。
「金吾、切り札になりそうって、夢前なのか?」
 七松は同級のほか自分の科の看護師や助手に限って、たまに名字ではなく名前で呼ぶことがある。一刻をあらそい怒号がとびかう救急の現場ではそちらのほうが呼びやすいからというのもあるし、仕事を離れた場で気を緩めているとき口をついて出ることもある。
「はい。彼の家は山伏に連なってて、伝統宗教には強いんです。だったら新興宗教も論破できるんじゃないかと思って。それに、見えるっていうし」
「ちょっと金吾、余計なことは言わなくていいの」
 夢前はすこし慌てたような素振りを見せたが、すぐに彼のいつもの笑顔に切り替わって、七松と善法寺に微笑みかけた。
「金吾がああ言ってますけど、あまり期待しないでくださいね。ただ、ああいう団体の理屈ややり口は多少知ってますから」
 善法寺と七松は顔を見合わせた。
 人には知らない一面があるものだ。いつも人好きのする微笑をうかべているこの青年も例外ではないらしい。
 そして夜は更けていく。




 さて時間は少し戻って、夕日差し込む立花の部屋。
 救急での騒ぎを伝え聞いた潮江は、渋い顔のままにその戸口に立っていた。彼を呼びつけた張本人である立花がのんびりとコーヒーなぞをすすっていることも、彼の気分を逆なでした。
「おい、仙蔵」
「まあ焦るな。お前もどうだ。伝七の持ってきた高級豆だぞ」
「要らん。お前の淹れ方は舌に合わない」
 贅沢な奴め、と立花は笑ってソファに座り、マグカップをローテーブルに置いた。座れと身振りだけで示して、潮江がその前の一人掛けに座ったのを確認して口を開く。
「昨日運ばれてきた心臓発作の患者がいるだろう」
「ああ」
「拡張型心筋症」
「…どこから聞きつけた」
「兵太夫が皆本から聞きこんで教えてくれたのさ」
 准看護師たちのおしゃべりは今に始まったことではない。特には組と呼ばれる連中はそうだ。潮江が黙っていると、立花が続けた。
「バチスタが必要だそうだな」
「ああ。手当てが早くて今回は回復したが、根本的解決には手術しかない」
「うちがやるのか」
「転院を勧めてもいいが」
 一瞬立花は顔を上げ、斜陽に目を細める。

「・・・日本にな、利吉さんが来ているんだ」

 潮江は彼の言わんとすることが分かって、ただ頷く。
「彼は世間じゃアメリカにいることになっているが、私は動向を山田先生から教えて頂いた。いや、それはどうでもいい」
 立花は脱線を恥じるかのように手を軽く振った。
「例の件で、まあまだ真偽は定かじゃないが、とにかくうちは対外的に存在感を示して置く必要がある。バチスタの成功は格好のアピールになるだろう。特に患者はテレビにも出て顔を売ってるしな。
・・・・だがやるからには絶対に失敗は許されん」
 まっすぐ自分を見つめる立花の眼の中を夕焼け雲が通り過ぎる。ともすれば揺れそうになる光を必死で抑えているのか、まぶたが微かに痙攣しているのがわかる。そんなことを妙に冷静に観察する己を自覚した。これから彼が言うであろうことなど、潮江には手に取るように分かる。

 立花の唇が開く。
「執刀は利吉さんに頼む」
「・・・ああ」
「な、文次郎、お前の腕を信頼しないわけじゃあない。
 だが、こういう局面だ、より可能性の高い選択肢があるならそちらを選ばねばならんのだ」
 そんなことはとっくに了承している、と言いそうになった。だがそうすれば立花の決意と気遣いを無にしてしまう気がして潮江は黙っている。
 よく誤解されるのだが、彼はそこまで矜持にこだわらない。たしかに自分の職掌を他人に奪われることには敏感だが、客観的にそれが最善であればどんな状況も躊躇わず受け入れられるのだ。
 結局のところ、彼もまた現実主義者なのだった。
「わかった」
「そうか」
 立花は片頬だけで笑って立ちあがった。コーヒーを飲みほし、もう用は無いとばかりに窓際へ寄って背をむける。潮江が退出しようとしたとき、疲れたような声が追いかけてきた。
「彼に連絡を取るよ。もし決まったら、お前には助手を務めてもらうと思う」
 わかった、ともう一度言って潮江はドアを閉めた。





 さてその翌日のこと。
 まだ朝露の匂い抜けやらぬ、閑散とした総合玄関の前に一台のタクシーが止まった。音もなくドアが開くと同時に、ポーチの向こう、自動ドアの開いた先に3つの人影が見える。薄暗いロビーを抜けてきたのは、立花、潮江、黒門であった。三人の中で飛びぬけて小柄な黒門は、何やら膨らんだ革のボストンバックを両手で持っている。
「御苦労、伝七。朝の勤務まであと少しあるから、兵太夫が来るまで休んでおくといい」
「ありがとうございます。お気をつけていってらっしゃいませ」
 ぴょこん、とボストンが地面に付きそうな勢いでお辞儀をする。その様子を慈愛そのものといった眼で見てから、立花は不意に横の仏頂面に視線を移した。
「朝からうっとおしいことこの上ないな。もっと爽やかな顔はできんのか」
「出来るか。なんで俺が利吉さんを迎えに行くのに、お前がついてくるんだ」
「失敬な。たまたま同じ方面に出張だからこそ、道中を楽しくしてやろうと思ってわざわざこんな早朝に起きだしてきたのではないか」
「・・・・そーかよ」
 もともと切れ長の目をまんまるくして言う立花に、反論する気も失せた潮江はぷいと横を向く。
「さて文次郎。いつまで私のかわいい黒門に重い荷物を持たせておくつもりだ」
「はあ? いやそれお前のだろ、っておい!」
 立花の肯首にこっくりと頷き返した黒門が、迷いのない歩調で寄ってきて彼にボストンを押し付けたので、思わず受け取ってしまった。
 そのまま黒門はもういちど(立花に)深く一礼して、暗いロビーにもどっていく。
「仙蔵!」
「私は脳外科だぞ。手先の細かい感覚の狂いだけでも命取りだ。そんな重いものが持てるか」
「いやお前、今日は手術の予定無いだろうが」
「ごちゃごちゃ聞き苦しい。そこのトランクに入れるだけだ。あと空港の手荷物預かりまで」
「降りてからは結構あるじゃねぇか!じゃなくて俺は空港まで行くのか!品川駅が先だろうが」
 などと吠える潮江を置いて、さっさと立花はシートに身体を滑り込ませる。
 一部からは鬼などと恐れられる潮江文次郎助教授にカバン持ちをさせるなど、院内にはこの男しかありえまい。
 立花を甘やかしている、という声が一部にあるのを知っていながら、文句を言いつつその要求を飲んでしまう自分がいつも不思議で仕方が無い。しかし立花の側にも、こうした理不尽なわがままを正当化しうるほどの、優雅な傲慢さがあるのも事実だった。


 結局本来の目的地である横浜駅をすっとばし空港へ向かうことになる潮江らを乗せたタクシーは、軽快にロータリーを出て行った。
 目をしばらく同じ場に留めてみよう。二人とボストンを乗せたタクシーが過ぎ去ったのち、総合玄関をスーツ姿でぴょこぴょこと歩いて出てきた者がいる。
 臨床工学技士として当直をしていた夢前三治郎である。
 彼は一度大きく伸びをすると、彼と眼が合うほどの高さで咲いていたマツヨイグサに口元を綻ばせ、門を出て左へ歩いて行った。




 さて数時間後の救急センター入院用病棟では、珍しく落ち着いた雰囲気が流れていた。
 この初夏の爽やかさのおかげか、午前中に運ばれてきた患者は飴を誤嚥したお年寄りだけであり、昨日よりはずいぶん人間らしくなった滝夜叉丸が担当していた。
 彼を補助する時友が段々眠そうな目になってきたのを見るともうほとんど処置は終わったようだ。
 かわりに救急の長たる七松は、あるカーテンで仕切られたパーティションの前で所在無げにいったりきたりしている。
 中では例の堂瀬と、報を聞いて駆けつけてきた母親が感動の対面をしているはずであり、伊作が汚い字で書かれたカルテを手に状態を説明する声がとぎれとぎれに聞こえてくる。処置をした七松が本来のその役目を放棄してここにいるのはいわば衛兵というか、待ち伏せであった。
 とはいえ母親もその姿を見せた時は、その異様な格好に救急が凍りついたものだ。全身真っ白な服装に、手にはビニール袋をかぶせ目にはサングラス。真っ白なニット帽の下に髪の毛があるのかどうかもわからない。
 全く動じなかったのは、見慣れているであろう堂瀬となぜか善法寺だけだった。

 いさっくんは人の見た目というものをどう考えているんだろうか、下手したら彼の目には誰もかれも、新鮮な内臓をつめたコーちゃんのように見えているのかもしれないな、だとしたら骨格だけで人を判断するいさっくんはやっぱりすごい、などと七松がぼんやり考えていたとき、甲高い男の怒り声と、宥めるような低い声に続いて救急の院内側の扉を潜った者たちがいた。ひとりは夢前三治郎であり、もうひとりはでっぷり肥った中年の男であった。
 母親と同じく白づくめの格好に加え、腰のまわりに注連縄のようなものを巻いている。
 すかさず七松が男の行く手をふさぐ。男の腹周りの脂肪だけでもうひとり作れそうな細身の夢前が、さりげなく後ろ手にドアを閉めた。
 奥でカルテを整理していた皆本が飛んできて、夢前のとなりに並んだ。皆本の心配げな視線に対し、いつも通りの穏やかな微笑を返している。
「おい。そこをどけっ」
   男が鼻息も荒く怒るが、何せ変声期をどうしたといいたくなるような高い声なので迫力が出ない。頭一つ分高い七松が腕を組んで一歩近寄ると、ひ、となさけない声が喉の奥から洩れた。

「ここは私の救急だ。要件をいってもらおうか」

 七松の声は良く響く。その白衣の向こうで平が必死に何もないかのように装い、時友がぽかんとこちらを見つめているのが見えた。その声を間近で耳に流し込まれた男は身なりに似合わぬ素早さで振りかえり夢前を指す。
「こ、この若造がわたしの術をインチキだと・・・・! わたしの信者に頼まれたと言うから、この場で決着を付けようと参上したまでよ」
「ふうん、まんまと夢前の挑発にひっかかってくれたわけだ」
 七松は顎をくい、と上げる。夢前は静かに笑って答えない。
「信者は、堂瀬伊予はどこだっ」
 男が言うと同時に、カーテンが開いて母親が顔を出した。男をみるなり、糸のような叫びをあげてその場に平伏する。
「軽戸さまっ! お許しください、病院は魔の血脈というお言葉に背いてこのような魔窟へっ・・・」
 むせびなく彼女は、あとはもう憑かれたように息子が、息子がを涙ながらに繰り返す。しばらく一同があっけにとられている中、カーテンをからりと開けた善法寺が朗、と宣言した。

「それじゃあ、教祖さんとやら。近代医療と魔術の親善試合を始めましょうか」




 救急病棟近くの会議室に、善法寺と七松、肥った男、そして堂瀬伊予とストレッチャーに横たわったその息子、ストレッチャーを押す皆本と夢前がそろった。
 ドアの近くに七松が陣取るのを待って善法寺が口を開いた。
「患者はこの堂瀬伊予さん。貴方の仰る治癒の力を拝見させてもらいます。息子さんは中立ですから見届け人です。もし伊予さんが治ったと仰るなら、あなたには金銭を要求する権利が生じます。
 伊予さんのご気分に変化がなければ、こちらで引き継ぎますけどいいですか」
 淡々と腕まくりをする彼はまるで消化酵素の説明をするようで、いいですかといいながら答えを期待していないのは明らかだった。
「…わたしの術は見せものじゃあないんだ」
「それなら、僕があなたの修行所でみつけたいろんなからくりは、いんちきの証拠だってことでいいですよね」
 すかさず夢前が釘をさす。教祖を名乗る男の顔にさっと赤みが差し、根が単純らしい男はこうして勝負のテーブルについたのだった。
 少し緊張した面持ちでパイプいすに腰掛けた堂瀬伊予に、男は手持ちの水筒からお茶のようなものを注いで渡す。
「それは?」
「祈祷の前にリラックスさせるためだ」
 ふうん、と善法寺は言ってそのお茶を取りあげた。男の抗議も聞かず、ポケットから小びんとスポイトを出し少量をびんに取り分ける。
 三治郎、長次に持って行って、と言いながらびんを手渡す。夢前は心得ましたと言って部屋を出て行った。
「サンプルを成分分析に回しました。ここは病院ですから、万が一にも向精神薬や鎮痛剤を処方箋なしで使わせるわけにはいかない。
 結果はすぐに出ますから待っててください」
 一瞬男の顔が強張る。その期を見逃さず顔を寄せて囁いた。
「…それよりもっといいものだったりして?」
 男は無言でさっと立ち上がり、入り口に向かう。
「おやあ、顔色悪いね兄さん。体調の悪い人間を病院から出すわけにはいかないな!」
 その進路を七松に塞がれ焦って背を向けた男は、迫る善法寺に正対する形で後ろ向きに七松に腕を抑えられた。善法寺が追い討ちをかける。

「あなた医師免許持ってるの?薬剤師は?
 無許可で医薬品を販売する、もしくは厚生労働省に認可を得ず健康効能をうたって製品を販売すれば薬事法違反。
 医師免許がないのに医療行為をすれば医師法違反、人体に鍼やメスで傷をつければ傷害罪。
 そもそも事実に基づかない喧伝によって人を誤認させたのだから詐欺罪にも問えるね。
 信者の不安を徒に煽って金を得たなら脅迫罪だ。
 きわめつけは非合法薬物の所持と使用?
 すごいねえ、アメリカだったら全部合わせて20年くらいにはなるかな」

 男は色を失い、もがいて逃れようとするが豪腕はぴくりともしない。
 と、その顔が歪み、瞼が痙攣する。ぱくぱくと口を動かし自由になる腕の先を鳥のように振った。急変に気付いて慌てて駆け寄ろうとする皆本を制し、善法寺はあくまでゆったりと男を見やる。
「そんなに太ってちゃ、心臓に負担かかるよね。発作でも起きたかな?」
「た、たすけて・・・」
「もちろん、僕は医者だから助けたくてたまらないよ。
 …けどあんたは自分で治せるだろう?」
 顔を真っ赤にさせた男が必死に首を振る。
「医学に助けを求めるっていうの?」
「しん・・ぞ・・心臓病なんだ・・死ぬ・・ッ」
 もう一度たすけて、と呻いて男は意識を失った。手を出しかねた皆本が救いを求めるように七松の顔を伺う。
 その視線に頷いた七松はこともなげに男を担ぎあげ、自らの城へ戻って行った。
「いさっくん、あとはよろしく頼むよ」

 善法寺が、一部始終をぽかんと見ていた堂瀬親子に向きなおる。
「さてと、堂瀬伊予さん。あの教祖さんが戻ってくるまで待ちますか?」
 しばらく逡巡していた彼女だが、やがて力なく俯いた。善法寺に付き添われ診察室へ向かう白い小さな背中を、その息子の目はいつまでも追っていた。